 |
新EDINETのスタートを記念して
3月17日、日本において現時点では世界最大規模のXBRL対応の公的システムが登場しました。上場企業等の財務情報の電子開示システムであるEDINET(Electronic Disclosure for Investor's Network)のリノベーションが終了し稼動したのです。2006年8月にシステムとタクソノミーの開発がスタートしたこのプロジェクトでは、XBRL導入に伴う様々な課題について経済界、投資家、アナリスト、公認会計士などの関係者の意見を聴取しながら推進され、2007年1月〜2月と7月〜8月には2度のパイロットプログラムによるテストも実施されました。特に2回目のpilot programにおいては約1200社の企業が任意参加するなど本プロジェクトにおける産業界の関心の高さが示されました。稼動当日、アクセスの集中などの理由でアクセスが停滞するというハプニングもありましたが、しかし、とにもかくにも、大きな混乱なく新EDINETは立ち上がったのでした。
法律によってEDINETに有価証券報告書、四半期報告書、有価証券届出書等の電子提出・開示を求められている企業は、上場会社等約5000社、ファンド約3000本。今回のプロジェクトで重要なことは、これらの企業にとってXBRLフォーマットによる提出は任意制ではなくて義務制としたことです。(米国基準、国際会計基準を採用して提出している企業については現時点では対象外です。それぞれの採用国・地域でのXBRL化の対応が進めば、その時点で義務化を検討することになります。)
この新EDINETが現時点で世界最大規模である、と冒頭に書きましたが、それは(1)約8000社(ファンド含む)といった非常に多くの企業を対象に、(2)XBRL対応を義務化し、(3)提出されたXBRLデータを公開して投資家等の利用に供する、というこの3点を併せ持つからです。現在世界各地でいくつかのXBRLに対応したシステムが稼動していますが、この3つを兼ね備えたシステムは他にはありません。私は以前ソフトウェア政策の担当を長くしていましたが、日本がITシステムの分野で世界をリードすることは残念ながら情報家電の分野以外ではあまり多くはありません。XBRLにおける、この珍しい日本のポジションはそういった意味で刺激的であり、またこれからも刺激的であり続けなければならないと考えています。
しかしながら一方で、新EDINETにも課題がもちろんあります。主な項目を挙げると、以下のとおりです。
- XBRL対応は財務諸表部分のみであること。発表されている米国基準、国際会計基準のタクソノミー案では注記なども対象とされていますが、EDINET taxonomyでは現時点では対象外です。少なくとも注記については、早期に検討を進めることが必要と考えています。
- versioning, rendering, formulasといった技術に対応していないこと。これらの技術についてはその仕様の確定をみながら、導入を検討する必要があるでしょう。
- 米国基準タクソノミー、国際会計基準タクソノミーとのinteroperabilityの確保。現在、日本を含め主要証券市場でXBRLの導入が推進されていますが、タクソノミーの技術的な整合性、タクソノミーの導入・適用方式、インスタンスの作成ルール、表示方式などの面で仕様が異なっていると、それぞれの方式で表現された財務情報がinteroperableでなく、またcompatibleでもなくなることとなります。
特にこの3については、2007年1月に米国SECとの意見交換で我々がこの問題を提起し、2007年10月にはIASCFの参加を得て、米国SEC,IASCF,金融庁の3者による連携体制が出来上がりました。さらにその後ECが参加し現在では4者連携体制のもとで、’Multinational Interoperability Architecture’の実現に向けてプロジェクトを推進しているところです。
XBRLの導入は大きく分けて2つの意味で大きなインパクトをもつと思います。
まず第一に、これは言うまでもありませんが、投資家など財務情報を利用する側に対するインパクトです。財務情報を高度に加工・分析する手段が与えられることで、「見る開示情報から使う開示情報へ」というべきパラダムシフトが現実のものとなると確信しています。これにより幅の広い高水準な投資活動が促進され、ひいては金融証券市場の活性化の起爆剤になることを期待しています。
さらにもうひとつ重要なのは、開示会社に対するインパクトだと思っています。有価証券報告書等のXBRL化が制度化(義務化)されたことをきっかけに、財務諸表作成の部門だけで無くそれにつながる開示会社の日々の取引等のデータをXBRLで作成し、その機能を使って処理をしていく全社的なシステムの導入が進むことが期待されます。これにより、企業は内部のシステム間の相違をXBRLでカバーできるだけでなく、経営にまつわるデータをより迅速に高水準に活用・分析できることとなります。XBRLは財務諸表作成のための言語にとどまらず、有力は経営戦略手段となりうるツールなのです。
新EDINETが、このような大きな可能性を有するXBRLの普及のターニングポイントになることを大いに期待したいと思います。前述したinteroperabilityの確保ともあいまって、XBRLは金融証券市場におけるglobal infrastructureとなるべきものであり、新EDINETがその先導役になっていきたいと考えているところです。
|
 |
|